込んで、あすこで打ちました時なぞは、毎日毎日大入り客止めで、大袈裟《おおげさ》のようですけれど、江戸中の人気を吸い取ったような景気でございました。そんなことでずいぶん儲《もう》けもしましたけれど、使いも使いました、一つ当りさえすれば、皆様を五年や十年、遊ばしてお置き申すほどのお金はなんでもないことでございます。今となってみると、あの仕事を手放したのが惜しくてたまりません、ほんのひょっとした意地で、ただみたように、人に株を譲り渡したのがこっちの抜かりでございました、ナニ、金さえあればいつでも買い戻せると思ったのが、あんまりたかをくくり過ぎました」
お角が、もとの仕事に充分の自信と未練を持っての話を、主膳は首を捻《ひね》りながら聞いていたが、
「強《た》ってその資本が欲しいならば、ひとつその秘策を授けてやろうか」
「お心あたりがございますなら、ぜひ伺いたいものでございます」
「化物《ばけもの》はいるか、あの化物は」
と言って主膳は、荒れた庭のあちらに、大きな土蔵の鉢巻のあたりの壊《こわ》れたところを見上げました。この二人が、かなり下腹に毛のない連中と見えるのに、このほかに、まだこの屋敷に
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