るとおっしゃったって、そこはこの金助でなければわからないのでございます、そこが金助の価値《ねうち》なんでございます」
酔っているとは言いながら、この金助の言うことは何か心得面でありました。だから兵馬はいよいよ好い獲物《えもの》と思って、
「ところで金助どの、お前に折入って頼みたいのだが、特別に拙者だけを神尾殿に引合せてくれまいか、内々で、ぜひともお話を申し上げねばならぬことがあるのじゃ」
「へえ、それはまた、どういうことでございましょう。しかし、それはせっかくでございますが、どうもそのお頼みばかりは駄目でございますよ、エエ、そりゃもう」
「左様なことを言わずに会わしてくれ」
「会わしてくれとおっしゃったところで、いねえ者はお会わせ申すことはできねえではございませんか」
「ナニ、神尾殿はおらぬと? では、躑躅ケ崎においでになるというのは嘘か」
「エエ、なんでございます」
「今、お前は、神尾殿は躑躅ケ崎の下屋敷に立退いておいでになると言ったではないか」
「そう申しましたよ」
「そんならば、拙者は会いたいのじゃ、会って直々《じきじき》にお話し申したいことがあるから、それをお前に頼むのじゃ」
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