」
「それはそうであろう。して、神尾殿や御一族はいずれに避難をしていらっしゃる」
「神尾様のお立退き先でございますか、それはわかりませんね、よしわかっていても、そればっかりは申し上げられませんね、それを知っているのは大方、この金助ぐれえのもので……おっと危ねえ、そりゃ嘘でございます、神尾の殿様は躑躅ケ崎のお下屋敷へお立退きでございますよ、ええええ、御無事でいらっしゃいますとも、お怪我なんどはちっともおありなさりゃしません、もしお怪我があるという者があったら、ここへ連れておいでなさいまし」
「拙者《わし》も、その神尾殿に会ってお見舞を申し上げたいと思うのだが、どちらにお立退きだかわからない」
「それはそうでございましょう、躑躅ケ崎においでになることはおいでになるに違いないのでございますがね、当分はどなたにも決してお目にかかることはございません。それは御病気なんですよ、前から御病気でもって休んでおいでになったのでございます、この御病気がお癒《なお》りなさるまでは決して、それは御支配様にだってお目にかかることではございません」
「金助どの、それをお前がどうして知っている」
「どうして知ってい
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