を打って逃げ惑いました。見れば神尾の門内から多くの侍が、白刃を抜いて切先《きっさき》を揃えて打って出でたところで、その勢いに怖れて穢多非人どもが、一度にドッと逃げ出したもののようでありました。白刃の切先を揃えて切って出でたのは、神尾の家来ばかりではあるまい、この近いところに住んでいる勤番のうちから、加勢が盛んに来たものと見えます。
穢多のうちには、切られたものも二人や三人ではないらしい。さすがに白刃を見ると彼等は胆《きも》を奪われ、パッと逃げ散ってしまったが、切って出でた侍たちは長追いをせずに、そのまま門の中へ引込んでしまいました。一旦逃げ散った穢多どもは、また一団《ひとかたまり》になったけれども、今度は別に文句も言わずに、門前に斬り倒された数名の手負《ておい》を引担いで、そのままいずこともなく引上げて行く模様であります。
ともかく、この場の騒動はこれだけで一段落を告げましたけれど、彼等の恨みがこれだけで鎮まるべしとも思えず、神尾の方でもまた、いわゆる穢多非人|風情《ふぜい》から斯様《かよう》な無礼を加えられて、その分に済ましておくべしとも思われないのであります。
その翌日、聞い
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