うことを聞き込みました。その病気というのは、犬に噛みつかれた創《きず》がもとだということまでも聞き込むことができました。
 よし、その医者をひとつ当ってみよう。兵馬は例の表《うわべ》だけの僧形《そうぎょう》で、神尾の屋敷の前まで来かかると、門前に人集《ひとだか》りがあります。穏かでないのは、これが城下の人ではなく、蓑笠《みのかさ》をつけ得物《えもの》を取った、百姓|一揆《いっき》とも見れば見られぬこともない人々であります。
「お願いでございます、神尾の殿様」
「お願いでございます」
と彼等は口々に罵《ののし》っておる。
「退《さが》れ退れ、退れと申すに。殿はただいま御病気じゃ、追って穏便《おんびん》の沙汰《さた》を致すから、今日はこのまま引取れと申すに」
 門番はこう言って叱りつけると、
「どうか、殿様にお目にかかりてえんでございます、殿様にお目にかかって、その申しわけがお聞き申してえんでございます」
「聞分けのない者共だ、強《し》いて左様なことを申すと為めにならん」
「そんなことをおっしゃらずに、殿様に取次いでおくんなさいまし、その御返事を聞かなければ帰れねえのでございます、御病気で
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