とめました。
「ちょうど一昨日《おととい》の夕方でありました、うちの男衆がこの出水《でみず》で雑魚《ざこ》を捕ると申しまして、四手《よつで》を下ろしておりますと、そこへこの犬が流れついたのでございます、吃驚《びっくり》してよく見ると、この犬が人間の着物をくわえてそこまで泳いで来ていたものでございますから、驚いて人を呼んで、その人をお助け申して家へお連れ申しましたけれど、どこのお方やら一向にわかりませんので……幸いに呼吸《いき》は吹き返しましてただいま、宿に休んでおいでなさるのでございますが、まだお口をおききなさるようにはなりません。そうするとこの犬がまた、わたしを引張り出すようにして外へ連れ出しましたから、もしやとそのあとをついて来てみると恵林寺様へ入りました。恵林寺様へ入りますとあすこでは、ソレ黒が来た。黒が来たと大勢してこの犬を迎えて、皆さんがお悦びになりました。やがてまたこの犬がわたくしを、川の方へ川の方へと連れて参りますから、もしや、これはもとこの犬の主人であった女の子が、川へ陥《はま》って死んでいるところへ、わたくしを連れて行くのではないかと胸騒ぎがしながら、あとをついて行っ
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