きるし、橋の上の人の提灯も、橋の下の舟の提灯も、絵に描いたように見えるけれども、それを眺めているのではありません。
暫くこうして塀の際に立っていた竜之助は、息をついているのであります。隠岐守の屋敷の隣は一橋殿で、その向うは牧野越中守の中屋敷、つづいて大岡、酒井、松平|因幡守《いなばのかみ》等の屋敷、それから新大橋であります。
ここへ来て立っている竜之助は、血に渇《かわ》いていました。たった今は両国橋の上で、斬って捨つべかりし人を斬り損ないました。そこにはたしかに邪魔物があった、その邪魔物は人でなくて動物でありました。その動物はもちろん犬であります。
その犬が……竜之助がここへ来ても、なお不審に思うのはその犬が、猛然としてその主人らしいのを防いでいたけれど、しかも自分に向って、なんらかの親しみがなかった犬とは思われないことであります。ここへ来て、はじめて思い越すよう、伊勢から出て東海道を下る時、七里の渡しから浜松までの道中を、自分のために道案内してくれた不思議な犬があった。自分が全く明を失ったのは、あの犬と離れた後のことである。犬と離れて自分は、ある女の世話になって東海道を下ったが
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