。この時分に、橋の左の方の側をふらふらと歩いて行く黒い人影がありました。さてこそムク犬が、それに感づいたのは不思議ではありません。
その黒い人影というのは、頭巾をかぶって、竹の杖をついた辻斬の人であります。米友を出し抜いて弥勒寺長屋《みろくじながや》を出た竜之助は、いつのまにか、こうしてここまで来ていました。
お君はゾッとして、
「まあ、なんだか怖くなってしまった、早く行きましょう、お前は誰に見られてもかまわないか知らないが、わたしはそうはゆかないの、夜の明けないうちにこの橋を渡りきらないと、あとから追手がかかるかも知れないから」
お君は強く扱帯《しごき》を引張りながら西へ向いて歩き出しましたけれど、犬はいっかな身動きもしません。頑《がん》として主人の意に従わないのみか猛犬は、かえって猛然として牙《きば》を鳴らしました。
犬が牙を鳴らした時に、人が近づいています。
駒止橋を渡って右手のところに辻番があるにはあるのです。しかしこの番人は、昼のうちお葬式が、橋の上を幾つ通ったかということを数えていればそれで役目の済む番人でしたから、深夜、眠い目をこすって、メソッコを売る必要はなか
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