いの金があったそうだよ。そうでなきゃお前、あれだけの仕事ができるものかな、やに[#「やに」に傍点]っこい大名じゃあトテモ高島の真似はできねえね。それだからお前、とうとう謀叛人《むほんにん》と見られちゃったのさ。あれでお前、ほんとに謀叛する気であって御覧《ごろう》じろ、大塩平八郎なんぞより、ズット大仕掛けのことができるんだね。だからお上でも怖くって仕方がねえ、とうとう謀叛人にされちゃってね、牢へまでぶち込まれて晩年は不遇といったようなわけさ。しかしまあ、あの男なんぞはなんにしても近世の人物さ」
 道庵先生は友達気取りで高島四郎太夫の話を始めながら、懐中から取り出したのは千住の紙煙草入の安物であります。
「いや皆さん、これだこれだ、これはその八十文で買った拙者の安煙草入でげすがね……」
 また始まった。高島四郎太夫を友達扱いはよかったけれども、安煙草入を満座の中へさらけ出して、八十文の値段までブチまけるから、それでお里が知れてしまいます。
「この煙草入について四郎太夫を憶《おも》い起すんでございますよ、まあお聞きなさいまし、拙者が若い時分、四郎太夫に奢《おご》らせて、友人両三輩と共に深川に
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