をうっかり言ってしまおうとして、はっと気がつきました。
「神尾殿は一人ではなかったのか」
「はい、あの、お友達で、お目の不自由なお方が一人」
「目の不自由な友達が……」
 その時、宇津木兵馬は愕然《がくぜん》として、思い当るところがありました。
「その目の悪い人に逢いたかったのだ、さあ、その人を探しに行きましょう、一緒に吉原へひきかえしましょう」
 兵馬がせき込んで、お角は煙《けむ》に捲かれます。
 その時に思いがけなく、築墻《ついじ》の蔭から、
「宇津木様、早く行っておいでなさいまし、神尾の殿様のところは、わっしが引受けますから、ずいぶん御心配なく」
 こう言ってのそり[#「のそり」に傍点]と出て来たのは、金助の声に違いありません。
「金助ではないか」
「へえ、金助でございます、おいやでもございましょうが、おあとを慕って参りました」
 金助は相変らずしゃあしゃあとしたものであります。
「今、わたしにぶつかったのはお前さんかえ」
 お角がこう言って咎めると、
「へえ、私でございます、飛んだ粗忽《そこつ》を致して申しわけがございません。実はその時、おわびを申し上げてしまえばよいのでござい
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