》りつけたようであります。
「おやおや、打《ぶ》ちやがったな、女だてらに男を打ちやがったぜ、女の子に抓《つね》られるのは悪くはねえが、こう色気なしに打たれちゃあ勘弁がならねえ」
「泥棒!」
「泥棒だって言やがる、こいつは穏かでねえ、こいつはどうも穏かでねえ」
「あれ――人殺し」
「おやおや、人殺し――なおいけねえ、兄弟、その口をしっかり封じてやってくんねえ」
「あれ――この野郎」
「何を言ってるんだ、ジタバタするだけ野暮《やぼ》じゃねえか」
たしかに一人の女を、二人の駕籠舁が取って押えて、手込めにし兼ねまじき事態と聞きつけた兵馬は、もう猶予するわけにはゆきませんから、神尾主膳を背中から下ろしてそこへさしおいて、今の金切り声の方へ飛んで行きました。
ところは鷲神社《おおとりじんじゃ》の鳥居の前、二人の大の駕籠舁が、一人の年増の女を取って押えようとしているところ。
「この馬鹿者めが」
兵馬は横合から一人を蹴飛ばして、一人を突き倒しました。その勢いに怖れて雲助は、霞の如く逃げてしまいました。
「危ないところをお助け下さいまして、有難う存じまする」
兵馬のために悪い駕籠屋を追い飛ばして
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