いた宇治山田の米友の三人は、今の鉄砲の音を聞いて、すわとばかりに駈けつけて見たけれど、騒動の中心たる万字楼のあたりは、近づくことができません。
吉原廓《よしわらくるわ》の内外の弥次馬という弥次馬は、数を尽して集まってしまったから、後《おく》れ走《ば》せになった三人は、どうしてもその人垣を破ることができません。
「困ったな」
「もしや宇津木の身から起った変事ではないか」
「どうともわからん、ともかく、この人混みを押破ってみよう」
浪士は人垣を、無理に破って闖入《ちんにゅう》しようとする時に、
「ワアッ――」
と崩れかかる群集。その勢いは大波を返すようだから、進もうとしてかえって押し返されるほかはないのであります。
「困った、なんとかして近づいて、様子を見たいものだ」
「よい工夫はないかな」
二人の浪士は、事を好んでこの騒動を見たいのみでなく、騒動の中に何か自分に利害関係のある人がいて、その身の上が心配でたまらないらしくあります。
この時に宇治山田の米友は、路次の軒の下へ蹲《うずくま》って、梯子《はしご》を組立ててしまいました。
いつのまにか組立てた梯子を、軒へ立てかけた米友は、
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