なた様のお邸ではござりませぬか」
「躑躅ケ崎が拙者の何であろうと、其許に尋ねられる由はない。いったい、君は誰に断わってここへ来た」
「ひとりで参上致しました」
「断わりなしに来たか、無礼千万な、帰らっしゃい」
主膳は起き直って、刀架から刀を取りました。
「まずお控え下されませ」
「黙れ黙れ、物を尋ねるなら尋ねるようにして来るがよい、人の寝込みへ踏み込んで、吟味するような尋ねぶり、小癪千万な」
主膳は、甚だしく怒りました。
「そのお腹立ちを覚悟で参りました、あなた様がどうあっても、その机竜之助の行方《ゆくえ》を御存じないとおっしゃるならば、私にも覚悟がござりまする」
「ナニ、覚悟がある? 覚悟とはどうしようというのじゃ、小倅《こせがれ》の分際《ぶんざい》で」
「町奉行へ訴えて出まする」
「町奉行へ何を訴える、誰を町奉行へ訴えるのじゃ」
「あなた様のお屋敷へ火をつけた穢多《えた》非人《ひにん》の在所《ありか》を、訴えて出ようと思いまする」
「ナニ、穢多がどうした」
神尾主膳は歯をギリギリと噛《か》んで、兵馬の面《かお》を睨《にら》めました。
「憎い奴、憎い奴」
神尾主膳は怒心頭《い
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