刀架《かたなかけ》から刀を取って、その鍔音《つばおと》を高く鳴らすと、
「やっ、誰じゃ」
「お目ざめでござりましたか」
「其許《そこもと》は誰でござる」
「拙者は番町の片柳と申すものでござりまする、ちとあなた様に、お尋ね申したい儀がござりまして推参致しました」
「ナニ、拙者に何を尋ねたいのじゃ、其許を拙者は知らぬ」
「親しくお目にかかるは初めてながら、拙者はあなた様が甲府に御在勤の折、よそながらお目にかかりました」
「ナニ、拙者が甲府にいた時分? 其許は甲府から何しにこの拙者を尋ねて来た」
神尾主膳は不安らしく起き直って、兵馬の面《かお》をながめました。
「私のお尋ね申したいのは、あなた様ではござりませぬ、あなた様にお聞き申したい人がござりまして」
「ナニ、拙者に聞きたい人? それは誰じゃ、誰を尋ねたいのじゃ」
「もしや、あなた様は、机竜之助というものを御存じではござりませぬか」
「知らぬ、左様な人は一向知らぬ」
「御存じない? それは真実でござりますか、真実その者の行方を御存じではござりませぬか」
「全く知らぬ、知ってはおらぬ」
「あの躑躅《つつじ》ケ崎《さき》の古屋敷は、あれはあ
前へ
次へ
全200ページ中116ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング