までの途中で、お目にかかったんですから……」
「では、確《しか》としたことはわからんのじゃな」
「何しろこの通りの騒ぎでございますから、顛倒《てんとう》してしまいました」
「この騒ぎはいま始まったことだ、神尾殿を見逃さぬよう、用心を頼んでおいたのはそれより前のことじゃ」
「それは、お頼まれ申したに違いございません、いまお知らせ申そうか、少し後にした方が都合がよいだろうかと思っているうちに、この騒ぎでございましたから」
「金助、貴様は頼み甲斐のない奴だ」
「そういうわけではございませんけれど、何しろこの通りの騒ぎで……」
「何のために拙者《わし》をここまで連れて来たのじゃ」
「どうもまことにあいすみません」
「金助、とぼけるな」
襟を取ってトンと突くと、金助は一たまりもなくひっくり返ってしまいました。
「まあ、お待ちなすって下さいまし、乱暴をなすっちゃいけません、そんな乱暴をなさると、茶袋といっしょにされてしまいますから」
やっと起き上ったのを兵馬が再びトンと突くと、金助はまたひっくり返ってしまいました。
「ようございます、それでは、わたくしが内密《ないしょ》でその茶屋をお知らせ致し
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