みに、何かわざわざ時間を潰《つぶ》す目的のためにここへ入り込んだものとしか思われません。そうでなければ、いくら物好きだからといって、米友を相手にこうして、摺物《すりもの》を読んで聞かせるはずがありません。
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「……折悪《をりあし》く局中病人多く、僅々三十人、二ケ所の屯所に分れ、一ケ所、土方歳三を頭として遣はし、人数多く候処、其方には居り合ひ申さず、下拙《げせつ》僅々人数引連れ出で、出口を固めさせ、打入り候もの、拙者初め沖田、永倉、藤堂、倅《せがれ》周平、右五人に御座候、かねて徒党の多勢を相手に火花を散らして一時余の間、戦闘に及び候処、永倉新八郎の刀は折れ、沖田総司刀の帽子折れ、藤堂平助の刀は刃切《はぎれ》出でささらの如く、倅周平は槍をきり折られ、下拙刀は虎徹故にや無事に御座候……」
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「なるほど」
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「実にこれまで度々戦ひ候へ共、二合と戦ひ候者は稀に覚え候へ共、今度の敵多勢とは申しながら孰《いづ》れも万夫不当の勇士、誠にあやふき命を助かり申候、先づは御安心下さるべく候……」
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「なるほど」
米
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