「そうですね、三条小橋縄手というところなんでしょう、縄付ではなかったのね」
「京都の池田屋さんというのでしょう、京都の騒動をどうしてここまで売りに来るんでしょうね」
「どうしてでしょう、きっとその池田屋さんに悪い番頭があって、お駒さんのような綺麗《きれい》なお嬢さんがあって、それから騒動が起ったといったような筋なんでしょう」
「わたしもそう思ってよ、お駒さんはかわいそうね」
「ほんとにお駒さんはかわいそうよ、言うに言われぬ訳《わけ》あって、夫殺しの咎人《とがにん》と、死恥《しにはじ》曝《さら》す身の因果、ふびんと思《おぼ》し一片の、御回向《ごえこう》願い上げまする、世上の娘御様方は、この駒を見せしめと、親の許さぬいたずらなど、必ず必ずあそばすな……」
「よう、よう」
「買ってみましょうか」
「エエ、新撰組の隊長で、鬼と呼ばれた近藤勇が、京都は三条小橋縄手の池田屋へ斬り込んで、長曾根入道興里虎徹《ながそねにゅうどうおきさとこてつ》の一刀を揮《ふる》い、三十余人を右と左に斬って落した前代未聞《ぜんだいみもん》の大騒動、池田屋の顛末《てんまつ》が詳しくわかる」
「おやおや、お駒さんじゃありま
前へ
次へ
全200ページ中107ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング