せんよ、京都へ鬼が出て三十人も人を食ったんですとさ」
「これこれ、読売り」
「へえ、へえ」
「一枚くれ」
「はい、有難うございます」
覆面した浪士|体《てい》の二人連れの侍が、読売りを呼び留めてその一枚を買いました。
「エエ、これはこのたび、京都は三条小橋縄手池田屋の騒動、新選組の隊長で、鬼と呼ばれた近藤勇が、京都は三条小橋縄手の池田屋へ斬り込んで、長曾根入道興里虎徹の一刀を揮い、三十余人を右と左に斬って落した前代未聞の大騒動、池田屋騒動の顛末が委《くわ》しくわかる……」
「ははあ、こりゃ手紙のうつしだ、通常の読売りとは違って、手紙そのままを摺《す》ったものじゃ。手紙というのは近藤勇が、池田屋騒動の顛末を父の周斎に送った手紙じゃ。こりゃかえって面白い」
浪士体の二人は、かえってその手紙の摺物《すりもの》を喜びました。
せっかく買おうと思った娘たちは、鬼だの人を食ったのということで怖気《おじけ》が立って、手を引いてしまいました。
それを聞いていた米友の好奇心は、かなり右の読売りの能書《のうがき》で刺戟されました。米友は新撰組だの近藤勇だのということは、よく知ってはいませんでした。
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