魁《おいらん》も禿《かむろ》も誰も来ない中に、ゆっくりと休みたいということであったから、これもその意に任せました。
部屋の者を差図して、竜之助を介抱させた神尾主膳は、自分の部屋へ引返したが、浮かぬ面色であります。親の敵《かたき》呼ばわりをする者が来ていると言って、自分に不快の思いをさせた金助の告げ口といい、この場の急報といい、なんとなく不安の思いが満ちて、部屋へ帰っても四方《あたり》が白《しら》けてなりません。
やむなく酒をあおりはじめました。多く酒を飲めば酒乱に落ちることを知っておりながら、なんとなしに酒を飲みたくなりました。
「白妙《しろたえ》も一座へ招いて、芸者を呼んで、もう一騒ぎしよう、そして今夜はほどよく切り上げて拙者は帰る」
酒が進むと主膳は、陽気に一騒ぎしたくなりました。
兵馬と東雲《しののめ》の第二局目の碁は、危ないところで兵馬が五目の勝ちとなりました。その時分に、
「白妙さんの部屋で心中」
という噂がここまで伝わって来る。
「心中? まあいやな」
と言って東雲は、眉をひそめました。
「心中ではございません、白妙さんのお客様が御急病なのでございます」
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