となりました。昨日も今日も雨であります。明けても暮れても雨であります。ただでさえ陰鬱《いんうつ》きわまるこの隠れ家のうちに、腐るような雨の音を聞いて竜之助は、仰向けに寝ころんでいるのであります。
雨もこう降っては、夜の雨という風流なものにはなりません。竜之助はただ雨の音ばかりを聞いているのだが、一歩外へ出ると、そのあたりの沢も小流れも水が溢《あふ》れて、田にも畑にも、いま自分の寝ている縁の下までも水が廻っていることは知らないのであります。
梅雨《つゆ》になるまでには、花も咲きました、木の葉も青葉の時となったことがありました、野にも山にも鳥のうたう時節もあったのだけれど、それも見ずに雨の時節になって、その音だけが耳に入るのであります。
竜之助とお銀様との間は、なんだか無茶苦茶な間でありました。それは濃烈な恋であったかも知れないし、自暴《やけ》と自暴との怖ろしい打着《ぶっつ》かり合いであるようでもあるし、血の出るような、膿《うみ》の出るような、熱苦しい物凄《ものすさま》じい心持がここまでつづいて、おたがいにどろどろに溶け合って、のたりついて来たようなものであります。おたがいに光明もな
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