大菩薩峠
黒業白業の巻
中里介山
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)八幡村《やわたむら》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)百姓|一揆《いっき》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号)
(例)※[#「にんべん+就」、第3水準1−14−40]
−−
一
八幡村《やわたむら》の小泉の家に隠れていた机竜之助は、ひとりで仰向けに寝ころんで雨の音を聞いていました。雨の音を聞きながらお銀様の帰るのを待っていました。お銀様は昨日、そっと忍んで勝沼の親戚まで行くと言って出て行きました。今宵はいやでも帰らねばならぬはずなのに、まだ帰って来ないのであります。
お銀様は、竜之助を連れて江戸へ逃げることのために苦心していました。勝沼へ行くと言ったのも、おそらくは親戚の家を訪《と》わんがためではなくて、いかにして江戸へ逃げようかという準備のためであったかも知れません。
こうして心ならずも小泉の家の世話になっているうちに、月を踰《こ》えて梅雨《つゆ》に打込むの時
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