ました。
「なるほど、こいつは大《でか》い犬だ、近頃の掘出し物だ、殿様が皮が欲しいとおっしゃるのも御無理はねえ、これなら下手な熊の皮より、よっぽど大したものだ。殿様は生皮《いきがわ》を剥《む》けとおっしゃるが、このくらいの奴に荒《あば》れられると、生皮を剥くにはかなり骨が折れる。なんでもいいから殿様は、生きたままでこいつの皮を剥いてみろとおっしゃる、剥くところを御覧になりたいとおっしゃる、そうおっしゃられてみると、こちとらも商売|冥利《みょうり》で、見事に生きたままで皮を剥いてお目にかけますと、言わずにはいられねえ。けれども長太、こいつには、ちっと骨が折れるぞ。いいかげん弱っちゃあいるようだが、無暗に吠えねえで悠々と寝ているところを見ると、肝《きも》っ玉《たま》がありそうな畜生だ。長太、棒を貸しねえ、ちっとばかり突いて怒らしてみねえけりゃあ、どのくらいの奴で、どのくらいにあしらっていいかがわからねえ」
二人は、ソロソロと寝ているムク犬の傍へ近寄って来ました。
二人の犬殺しが、ソロソロと近寄った時に、ムク犬はようやく頭を擡《もた》げました。
頭を上げたけれども、いつものように勇猛の
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