の方の二品は、こりゃ錦の袋入りの守り刀と来ている、もう一つはズッシリとしたこの重味、この二つとも、殿様からの御拝領なんだろう、まだ結び目も解かず、封も切らずにあるやつが、手つかずこっちへ授かったというのも返す返す有難え話だ。さあ、兄貴、俺らの方はこの通りまずまず当座の仕事としては大当りに近い方だが、兄貴の方の仕事はどうなるんだ、まだこれから出かけてみても遅いわけではあるめえから、その舶来の煙硝蔵《えんしょうぐら》とやらへ、俺らもお伴《とも》をしてみてえものだな」
 がんりき[#「がんりき」に傍点]はひきつづいて手柄話と盗んで来た品物とを、鼻高々と七兵衛の前へ並べて吹聴《ふいちょう》しているのを七兵衛は、やはり苦々しく聞いていたが、
「なるほど、そいつはかなり気の利いた仕事をしたものだ、けれども、その手前《てめえ》が、甲府から持越しの意趣を晴らしてえという当の相手はどこにいるんだ、甲府で失策《しくじ》った能登守という殿様は、いま江戸にも姿が見えねえのだ、そうして田舎芝居の盲景清《めくらかげきよ》のように、恨《うら》みの衣裳を引張り廻してみたところで、肝腎の頼朝公が不足していたんじゃあ、芝
前へ 次へ
全172ページ中85ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング