ようになるかも知れません、もしこれが御縁で大尽のお気に入りにでもなって、お出入りが叶うようになりますれば、使に立った私共までが面目でございます」
「この馬鹿野郎!」
 道庵先生はこの時に、眼より高く差し上げていた薬研を、力を極めて玄関先へ投げつけました、薬研は凄《すさま》じい音をして、鰡八大尽の使者の足許へ落ちました。それと共に爆裂弾の破裂するような道庵先生の大音で、
「ざまあ見やがれ!」
 使者の連中は、この人並ならぬ道庵先生の挙動と、足許で破裂した薬研の響きで、腰を抜かすほどに驚きました。
 物を知らないというのは怖《おそ》ろしいものであります。使者の連中も、最初から道庵先生と心得てかかれば、これほどのことはなかったであろうに、惜しいことに、その辺の注意が行届かなかったから、こういうことになったのは返す返すも残念でありました。
「こりゃ気狂《きちが》いだ」
 長居をしてはどういう目に逢うか知れないと思って、あわてふためいて這々《ほうほう》の体《てい》で、使者の連中は逃げ帰ってしまいました。
 こうして彼等を追い返したけれども、道庵先生の余憤はまだ冷めないのであります。寝巻のままで庭
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