から、手前の勝手にしてみるがいい、懲《こ》りてみるのも薬だ」
「有難え」
二人で一緒に仕事をするはずであったのが、ここで二つに分れて仕事をすることになります。
ここで二人のよからぬ者が手筈《てはず》を分けて、一方は火薬製造所の普請場の方へと出かけて行き、一方はまた扇屋をさして出かけて行くことにきまったらしくあります。
がんりき[#「がんりき」に傍点]の方は、心得て直ぐさまその場から姿を隠したが、七兵衛は少しばかり行って踏みとどまり、
「野郎、いったい何をやり出すんだか」
と言って、七兵衛は普請場の方へ行こうとした爪先を変えて、がんりき[#「がんりき」に傍点]が出て行った方へ素早く歩き出したところを見ると、そのあとをつけて、あの小ざかしい片腕が、何を見つけて何をやり出すのだか、それを突留めようとするものらしくあります。
ややあって七兵衛は、音無川の岸の木蔭の暗いところから、扇屋の裏口を覗《のぞ》いて立っていました。どこといって起きている家はなく、そうかと言って、いまがんりき[#「がんりき」に傍点]が忍び込んでいるらしい物の音も聞えません。けれども七兵衛は、この口を守って、中からの
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