るんだ」
がんりき[#「がんりき」に傍点]が、また駄目を出しはじめます。
「どうしようか、お前よく考えてみな」
七兵衛は煮えきらないのであります。がんりき[#「がんりき」に傍点]はそれをもどかしがって、
「考えてみなと言ったって、兄貴がその気にならなけりゃ仕方がねえ。実のところは俺《おい》らはモウ小遣銭《こづかいせん》もねえのだ、さしあたってなんとか工面《くめん》をしなけりゃならねえのだが、兄貴だって同じことだろう。命からがらで甲州から逃げて来たんだ、ここまで息をつく暇もありゃしねえ、いくら人の物をわが物とするこちとらだって、海の中から潮水を掬《すく》って来るのとはわけが違うんだ」
「今夜はなんとか仕事をしなくちゃならねえな」
「知れたことよ、そのことを言ってるんだ。いま聞けば、扇屋は何か役人の普請事の会所になっているというじゃねえか、そこへひとつ今晩は御厄介になろうじゃねえか」
「俺もそう思ってるんだ。普請事というのは何か鉄砲の煙硝蔵《えんしょうぐら》を立てるとかいうことなんだそうだ、なにしろお上の仕事だから、小さな仕事ではあるめえと思う、お金方《きんかた》も出張っているだろうし
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