今、御前《ごぜん》が御急病でいらっしゃる、先生に大急ぎで出かけていただきたい、御前はお気が短くていらっしゃるから、愚図愚図しているとお為めになりません、寝巻のままで決して御遠慮なさるには及びませんから、こういう場合でございますから、失礼は私共からあとで幾重にもとりなして差上げますから、どうか御一緒に願いたいもので」
 国公が玄関の戸をあけるを待ち兼ねて、外からこういう挨拶でありました。寝ながら聞いていた道庵先生は、どうも解《げ》せない挨拶だと思いました。第一、御急病でいらっしゃる御前というのは、何者であるかということも解せないのでありました。それに気が短くていらっしゃるから、愚図愚図していると為めにならないという言い分は、考えてみるとおかしな言い分でありました。お気が短くていらっしゃろうと、お気が長くていらっしゃろうと、こっちの知ったことではないのであります。寝巻のままで御遠慮をなさるには及ばないから出て来いという言い草も、ずいぶん変った言い草であります。失礼はあとでとりなして上げるというのは、いったい誰に向って言ったのだろうと、道庵先生も少しく面喰って、世には粗忽《そそっ》かしい奴も
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