る人であったならば、相手がなにしろ道庵先生だということを腹に置いてかかるのだけれど、不幸にしてその連中は、それだけの心得も腹もない連中が、狼狽《あわて》て駈けつけたもんだから、鰡八大尽のためにも、道庵先生のためにも、悪い結果を齎《もたら》すということを夢にも予想はしませんでした。
「今晩は、今晩は」
大尽の家の子郎党は、傾きかかった道庵先生の家の門を、荒々しく叩きました。
「国公、起きて見ろ、いやに荒っぽく門を叩く奴がある、こちとらの門なんぞは、下手《へた》に叩かれたんではひっくり返ってしまわあな」
道庵先生はその音を聞きつけて、寝床の中から薬箱持ちの国公に差図しました。
国公は、慣れたものだから、直ぐに起きて案内に出ました。
「どーれ」
国公が応対に出たけれども、道庵先生の寝ているところと玄関とは、いくらも隔たっていないのだから、先生はその応対の模様を、いつも寝ながらにして聞いていて、それによって病気の模様を察し、急いで駈けつけるべき必要があると認めた時は急いで駈けつけ、悠々《ゆるゆる》していた方が病人のためになると思った時は、わざと悠々したりなどするのが例でありました。
「
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