が、水量が不足だからという理由で、三ツ又の方へ持って行かれました。
 工事の頭取には武田斐三郎、それを助けるのは御鉄砲玉薬下奉行《おてっぽうたまぐすりしたぶぎょう》の小林祐三、ほかに俗事役が三人と、そのころ算術と舎密学《しゃみつがく》に通じていた貝塚道次郎というものが、手伝いに出勤することとなりました。
 注文の火薬製造機械は、和蘭《オランダ》のアムステルダムから帆前船に積み込まれたという通知もありました。
 頭取をはじめ役人たちは扇屋を宿と定めていたけれど、工事の場所には作事小屋があって、そこに絶えず宿直している役人らしい者があります。
 その小屋の一室へは、武田斐三郎や貝塚道次郎らが出入りするのみで、他に何人《なんぴと》も出入りすることを許されませんでした。それは、人に知られてはならない火薬上の秘密や、機械類の組立てをするところであろうと、俗事役の者や土方人夫などは、敢《あえ》てそれに近寄ろうとはしませんでした。
 この秘密室は、夜になると厳重に錠が下ろされてしまいます。工事の見守りをする夜番の小屋はそこよりズッと隔たったところにあるから、ただ時々にその辺を廻って火の用心をするくら
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