て、身分ある公儀の役人が詰めた時に、その縄張りの計画がかなり重大なものであることを悟りました。そこへ来た役人の重《おも》なる者は、沢太郎左衛門と武田斐三郎《たけだひさぶろう》とでありました。この二人は、幕府のその方面において軽からぬ地位の人でありました。扇屋へ招かれた大工の伊三郎だの、鳶《とび》の万蔵だのという者の口から聞くと、このたびのお縄張りは、滝の川附近へ、公儀で火薬の製造所をお建てになる御目論見《おんもくろみ》から出たものだということがわかってきました。
 この火薬の製造所は、従来の火薬の製造とは違って、日本において初めての西洋式の火薬の製造所を建てるということなのであります。その計画は、小栗上野介《おぐりこうずけのすけ》と武田斐三郎との両人の企てで、沢太郎左衛門がそれに参加したのは、やや後のことになります。
 こうなって来ると思い出されるのは、それにもう一枚、駒井能登守ということでありますが、惜しい哉《かな》、せっかくの人材も烏有《うゆう》のうちに葬られています。
 この日本で初めての西洋式の火薬の製造所の工事は、着々と進んで行きました。
 最初に縄張りをした甚兵衛水車の附近
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