げるようになってしまいました。
このごろのお絹は、自宅へ男女の客を招いては勝負事に浮身《うきみ》をやつしています。
或る時は、思いがけない大金を儲《もう》けることもありました。或る時は、大切の頭飾《かみかざ》りなどを投げ出すようなこともありました。
興が尽きて客が去ったあとでは、なんだか堪《たま》らないほどな淋《さび》しさを感ずるようになりました。その淋しさを消すために、冷酒《ひやざけ》を煽《あお》るようなこともあり、ついには毎夜、冷酒を煽らなければ寝つかれないようになってしまいました。
お松がいればこれほどにはならなかったものであります。お絹はともかくもお松を保護していました。お松もまた何かと言っても、恩人としてその人に忠実でありました。だからお松があることによって、なんとなしに前途に希望を持っていましたけれど、そのお松が逃げてしまってみると、頼む木蔭の神尾の当主というのはこの通りの人物であるし、自分は年ようやくたけて容色は日に日に凋落《ちょうらく》してゆくし、そうかと言って、頼るべき親類も、力にすべき子供もないのであります。それを考えると、前途は絶望あるのみでありました。足
前へ
次へ
全172ページ中39ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング