……」
「エ!」
「嘘だ、嘘だ」
「冗談《じょうだん》じゃねえ、善兵衛さん、貧窮組が納まって間もねえ時だ、嚇《おどか》しっこなし」
「生首は嘘だが、まあ外へ出てごらんなさい、大変な張紙だ」
「エ、張紙?」
 張紙と聞いてやや安心をしました。やや安心したけれど、それは生首と聞いた時よりも安心したので、この時分の張紙は、生首と聞くのと、ほぼ同じように気味の悪いものでありました。親爺連はせっかくの興を殺《そ》がれたけれど、また別の興味を持って外へ出たり、外を覗《のぞ》いたりして見ると、その自身番の北手の雨樋筒《あまひづつ》に大きな張紙がしてあって、それを通りがかりの人が、大勢して読んではワイワイ騒いでいるのであります。
「また、こんな悪戯《いたずら》をはじめやがった、人騒がせな悪戯だ」
と自身番の親爺は、ブツブツ言いながらその張紙を引っぺがしにかかりました。自分も読まないうち、人にも読ませないうちになるべく早く引っぺがして、町奉行にお届けをする方がよいと思って、邪慳《じゃけん》にそれを引っぺがして、自身番の中へ持ち込んでしまったから、見物の中には一読したものもあろうし、まだ読みかけて半ばのも
前へ 次へ
全172ページ中31ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング