限りを尽しました。蟻や蠅なんぞは踏みつぶして通る勢いでしたけれども、その蟻や蠅が多数を組んであばれ出してみると、唇の色を変えて周章狼狽した有様は、滑稽にもまた不得要領の現象でありました。
 さすがに緩慢主義の幕府も、こう騒ぎ出されてみると、手を束《つか》ねてばかりはいられませんでした。同じ「近世紀聞」という本のうちに、
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「其頃既に庄内藩には府下非常を誡《いまし》めのため常に市中を巡邏《じゆんら》あり、且つ南北の町奉行にも這回《このたび》の暴挙を鎮撫なさんと自ら夥兵《くみこ》を従へつつ普《あまね》く市街を立廻りて適宜の処置に及ばんとするに、貧民は早や食ふと食はぬの界に臨みたるなれば、各《おのおの》死憤の勢ありて小吏等万般説諭なせどもなかなかに鎮まらず、或は浅草今戸町その外処々の辻々へ貧窮人等が張札をして区々の苦情を演《の》べたるうへ、先づ差当り白米の代価百文に付《つき》五合ならねば窮民口を糊《こ》し難しと記し、また或は米穀は固《もと》より諸色《しよしき》の代価速かに引下ぐるにあらずんば忽ち市中を焼払はんなどと書裁《しよさい》なしたる所もあり、斯《かく》なして尚《な
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