や蠅でさえ生きていられる世の中に、人間が食えなくなって生きていられないという世の中は、無惨《むざん》なものといわねばなりません。
それがためであったかどうか知れないが、あの不得要領な貧窮組が勃発して江戸市中を騒がすと共に、有司《ゆうし》も金持も不得要領に驚いてしまいました。ことに驚いたのは金持の連中でありました。一時は生きた空がなくて、金品を寄附したり、慈善会のようなものを起したりして、貧民の御機嫌を取ろうとしてみた狼狽《あわ》て方はかなり不得要領なものでありました。けれどもそれは、誠意のある狼狽て方ではなく、不得要領はいよいよ不得要領な狼狽て方であります。
けれどもその時分の政治は、打てば響くような政治ではありませんでした。徳川幕府が亡びかかった時代の政治でありました。米が高くなろうとも、物価が上ろうとも、幕府の方では、あんまり干渉をしませんでした。いよいよの時までは成行きに任せておいて、何か出たら出た時の勝負というような政治でありました。
金持の連中もまた、儲《もう》けたい奴は盛んに儲け、儲けた上に莫大の配当をしました。そうして、大ビラで贅沢《ぜいたく》や僭上《せんじょう》の
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