げ終わり]
これによって見ると「近世紀聞」の記者は、貧窮組を蟻の集まる如く、蠅の群がるに異ならずと見たのであります。貧民といえども人間であろうのに、それを蟻や蠅と同じに見られたということは不幸であります。
けれども蟻や蠅に見立てられる貧民自身にとっては、必ずしも物好きでやったことではないらしいのであります。彼等にあっては、天下が徳川のものであろうと、薩長の手に渡ろうと、そんなことは大した心配ではありませんでした。ただ心配なことは、物が高くなって食えなくなるということでありました。
天下国家の大きなことを憂《うれ》うる人には、別に志士という一階級があって、それは殿様から代々|御扶持《ごふち》をいただいて、食うというような賤《いや》しいことには別段の心配のなかった者や、その家庭に生い立った人が多いのであります。けれども、この貧窮組は生え抜きの平民でありました。武士は食わねど高楊枝《たかようじ》、というようなことを言っておられぬ身分の者ばかりでありました。彼等は食いたくてたまらないのであります。世に食いたくてたまらないものが食えなくなるということほど、怖るべき事実はないのであります。蟻
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