勢は大したものだ、すばらしい御馳走をした上に、日本の土地では見ることのできない朝鮮芝居を見せてくれるそうだ、鰡八大尽でなければできない芸当だ、さすがにすることが大きい」
江戸市中はこの評判で持ち切ってしまいました。道庵の馬鹿囃子などはこの人気に比べると、お月様に蛍のようなものであります。道庵も少しばかり悄気《しょげ》てきました。これは馬鹿囃子だけでは追付かない、何かほかに一思案と思っているうちに、大尽《だいじん》の屋敷の園遊会の当日となりました。
江戸市中の見物は、我も我もと押しかけて来ましたけれど、大尽の妾宅の門まで来て見ると、急に二の足を踏んでしまいました。
それは園遊会も、朝鮮芝居も、無料《ただ》で接待するものとばかり思っていたら、目玉の飛び出るほど高い場代を徴集するのでありますから、それで集まったものが、あっと二の足を踏みました。
あれほど吹聴したり、評判を立てさせたりしたものだから、無料《ただ》で入れて無料で見せるのだろうと思ったら、目玉の飛び出るほどの場代を取るというのだから、集まって来た人が門の前で二の足を踏みました。
「ばかにしてやがら、大尽がどうしたと言うんだ
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