やし》が当りに当ったものだから、いよいよいい気になって、このごろでは、道庵も本業の医者をそっちのけにして踊り狂っていました。そうするとまた近所界隈が、それを面白がってワイワイと集まって来ました。ついには道庵先生の庭から屋敷の前まで、露店が出て物日縁日《ものびえんにち》のような景気になりました。
鰡八大尽の妾宅の喧《やかま》しいことと言ったら、それがため夜の目も寝られないのであります。大尽から内命を下された出入りの者は、いかにしてこの暴慢なる道庵を退治すべきかに肝胆《かんたん》を砕きました。その結果どうしても、右の馬鹿囃子に対抗するような景気をつけて、道庵の人気を圧倒しなければならないと、その方法をいろいろと研究中であります。
そのあいだ道庵は、いよいよ図に乗って、これ見よがしに踊り狂い、踊りながら、
「スッテケテンツク、ボラ八さん」
なんぞと妙な節をつけて、出鱈目《でたらめ》の唄をうたいました。それが子供たちの間に流行《はや》って、
「スッテケテンツク、ボラ八さん」
何も知らない子供たちは、道庵の真似をして、大きな声で町の中を唄って歩くようになりました。
大尽の一味の者は、いよ
前へ
次へ
全172ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング