結局、もとこの箱惣の家に留守番をしていて、槍を揮《ふる》って侍を追い飛ばしたことのあるおじさんだということを、子供らの口から確めて、改めてお礼に行かなければならないと言っていたが、さて今ではその男がどこにいるのだか、子供らの話ではいっこう要領を得ません。
「おじさんは、少しの間、旅をしていたんだとさ、そうして今はなんでも下谷の方にいると言ったね、政ちゃん」
 子供らの米友についての知識は、これより以上に出でることはできませんでした。
 これより先、この騒ぎを聞きつけて、箱惣の家の物見の格子の簾《すだれ》の内から立って外を覗《のぞ》いていた娘がありました。それは米友が井戸から上って、着物を引っかけて、帯を結んでいる時分のことであります。
 この娘は、その時はじめて奥の方から出て来て、騒ぎのことはまるきり知りません。どうやら井戸へ人でも落ちたものらしいけれど、その時は井戸側の騒ぎは長屋裏の方へうつって、井戸側には、米友一人が向うを向いて帯を締めているだけのことでありましたから、最初はかくべつ気にも留めないでいました。そのうちに長屋の方からまたゾロゾロと人が引返して来ると、井戸側にたった一人
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