ているのであります。
 母親は米友の手から子供を奪って自分の家へ持って帰りました。弥次馬はそのあとをついて喧々囂々《けんけんごうごう》と騒いでいます。井戸側の少し離れたところに米友は、たった一人で手拭をもって身体を拭いていましたが、やっぱり誰も御苦労だとも、大儀だとも言うものはありませんでした。苦笑いしながら米友は着物を引っかけて帯を結んで、さて、
「あっ!」
と言って、さすがに米友があいた口が塞《ふさ》がらないのは、首根ッ子へ結《ゆわ》いつけていた風呂敷包が、いつのまにか紛失していることであります。
 風呂敷包が紛失しているのみならず、財布に入れておいた小銭までが見えなくなっていました。
 その風呂敷包みには、道庵から頼まれた薬を仕入れるための金銭が入れてありました。
 あまりのことに米友は腹も立てないで、着物を引っかけて苦笑いのしつづけです。
 この場合に米友の物を盗み去るのは、火事場泥棒よりももっとひどいやり方でありました。しかし、盗んで行った奴とても、ただ路傍に抛《ほう》り出してあったから、それを浚《さら》って行ったので、こういう場合に米友の抛り出して置いたものと知って盗んだの
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