。ああして恩になったり、世話になったりしたところへ、江戸へ来てみれば面出《かおだ》しをしねえというのは義理が悪い。さて今日はこれから、あの家へ遊びに行ってやろうか知ら、本所の鐘撞堂《かねつきどう》で相模屋《さがみや》というんだ、よく覚えてらあ」
 ここで米友の心持がようやく定まりました。本所の鐘撞堂の相模屋という夜鷹《よたか》の親分の許へ、米友は御無沙汰廻りに行こうという覚悟が定まったのであります。
 手ぶらでも行けないから、何か手土産を持って行きたいと、米友も相当に義理を考えて、何にしようかとあっちこっちを見廻しながら歩いているうちに、柳原を通り越して両国に近い所までやって来てしまいました。
「両国!」
と気がついた米友は、全身から冷汗の湧くように思って身を竦《すく》ませました。両国は米友にとっては、よい記憶のある土地ではないのであります。よい記憶のある土地でない上に、そこへ来るとむらむらとして一種いうべからざるいやな感じに襲われてしまいました。
 両国に近いところへ来て米友が、むらむらと不快な感に打たれて堪《たま》らなくなったのは、それは前にもここで心ならず印度人に仮装して、暫くの
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