合おうとする道庵の愚劣を笑っています。
 或る日のこと、大尽の家の高楼では、大広間を開放して、例の美人連に合奏をさせ、出入りの客を盛んに集めて、大陽気で浮れはじめたのを道庵が見て、外へ飛び出しました。
 まもなく道庵が帰って来た時分には、その背後に二十人ばかりの見慣れない男をつれて来ました。それは年をとったのもあれば、若いのもあり、背の高いのもあれば、低いのもありました。道庵はこの二十人ばかりの見慣れない男を、櫓の上へ迎え上げました。そうして彼等に何事をさせるかと思えば、つづいてそこへ太鼓を幾つも幾つも担ぎあげさせました。
 この連中は、馬鹿囃子《ばかばやし》をする連中であります。どこから頼んで来たか知れないが、わずかの間にこれだけの馬鹿囃子を集めることは、道庵でなければできないことと思われます。
 大尽の家では、琴や三味線や胡弓で、ゆるやかな合奏の興が酣《たけな》わになる時分に、道庵の櫓では、天地も崩れよと馬鹿囃子がはじまってしまいました。それがために、大尽の楼上の合奏は滅茶滅茶《めちゃめちゃ》に破壊されて、呆気《あっけ》に取られた美人連と来客とは、忌々《いまいま》しそうな面《かお》
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