直に三十日間手錠を守っているということは、ばかばかしいにも程のあったことだけれど、酔っている上に、頑固を言い出すと際限のない先生のことだから、それではと言ってひとまずそのままにしておくことにしました。
道庵はこうして、ツマらない意地を張って手錠をはめられたままでいるが、その不自由なことは譬うるに物がないのであります。
こんなことなら、五人組の言うことを素直に聞いておけばよかったと、内心には悔みながら、それでも人から慰められると、大不平で意地を張って、ナニこのくらいのことが何であるものかと気焔を吐いてごまかしています。
そうして意地を張りながら、酒を飲むことから飯を食うことに至るまで、いちいち国公の世話になる億劫《おっくう》さは容易なものではありません。当人も困るし、病家先の者はなお困っていました。
二日たち三日たつ間に道庵も少しは慣れてきて、相変らず手錠のままで酒を飲ませてもらい、その勢いでしきりに鰡八の悪口を並べていました。
この最中に、道庵の許《もと》へ珍客が一人、飄然《ひょうぜん》としてやって来ました。珍客とは誰ぞ、宇治山田の米友であります。
この場合に米友が、道庵先
前へ
次へ
全172ページ中139ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング