す。
 手錠三十日は、大した重い刑罰ではありませんでした。道庵はこのごろ鰡八を相手に騒いでいるけれども、大した悪人でないことはその筋でもよくわかっているのであります。悪人でないのみならず、道庵式の一種の人物であることもよくわかっているから、お役人も、またかという心持でいました。しかし訴えられてみるとそのままにもなりませんから、道庵をつかまえて来て、ウンと叱り飛ばし、手錠三十日の言渡しをして町内預けです。
 それで道庵は、手錠をはめられて自分の屋敷へ帰っては来たけれど、その時は祝い酒が利《き》き過ぎてグデングデンになって帰ると早々、手錠をはめられたままで寝込んでしまいました。眼が醒めた時分に起き直ろうとして、はじめて自分の手に錠がはめられてあったことに気がつき、最初は、
「誰がこんな悪戯《いたずら》をしやがった」
と訝《いぶか》りましたが、直ぐにそれと考えついて、
「こいつは堪《たま》らねえ」
と叫びました。しかし、それでもまだ何だかよく呑込めていないらしく、役所へ引張られたことは朧《おぼろ》げに覚えているけれども、叱り飛ばされたことなんぞはまるっきり忘れてしまっていました。男衆の国公か
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