分に、いつのまに用意しておいたものか、例の馬鹿囃子以来の櫓の上に、夥《おびただ》しい水鉄砲が筒口を揃えて、一様にこの御殿の座敷の上へ向けられてありました。
「これは」
と鰡八大尽の主客の面々が驚き呆《あき》れているところへ、櫓の上では、道庵が大将気取りでハタキを揮《ふる》って、
「ソーレ、うて、たちうちの構え!」
と号令を下しました。
 その号令の下に、道庵の子分たちは、勢い込んで一斉射撃をはじめました。これは予《かね》て充分の用意がしてあったものと見えて、前列が一斉射撃をはじめると、手桶に水を汲んで井戸から梯子《はしご》、梯子から屋根と隙間もなく後部輸送がつづきました。これがために前列の水鉄砲は、更に弾丸の不足を感ずるということがなく、思い切って射撃をつづけることができました。水はさながら吐竜《とりゅう》の如き勢いで、鰡八御殿の広間の上へ走るのであります。
 これは実に意外の狼藉《ろうぜき》でありました。せっかく極めて上品に集まった品評の会が、頭からこうして水をぶっかけられてしまいましたから、主客の狼狽は譬《たと》うるに物がないのであります。ズブ濡れになって畳の上を、辷《すべ》ったり
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