ました。
この家は、主人の箱惣が殺されて以来、一家は四散し、親戚の者も天誅《てんちゅう》を怖れて近寄るものがありませんでしたから、町内で保管し、一時は宇治山田の米友が、その番人に頼まれて、槍を揮《ふる》って怪しい浪人を追ったことなどもありました。
この家は何者によって買取られたか知れないが、持主がかわり修理が加えられると共に、そこに出入りするのは異種異様の人であることが、多少、近所のものの眼を引きました。身分あるらしい武士であり、或いは大名の奥に仕えるらしい女中であり、或いはまた諸国の商人のようなものまで集まりました。女房子供の類《たぐい》は一つも見えないで、これが主人と見えるのは、額《ひたい》に波を打つ大白髪《おおしらが》の老女でありました。
この老女は、気軽におりおりは一人で外出することもあり、また若い女中をつれて外出することもあり、物々しく乗物で乗り出すこともありました。たしかに武家出の人であって、一見して女丈夫とも思われるくらいの権《けん》の高い老女であります。
この老女の家には、前に言う通り絶えず食客がありました。その食客はまた武士であり、商人風の者であり、或いは労働
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