「もう一杯」
と言ってお盆の上へそのお椀を載せました。小坊主が心得て、いま食べたと同じような、お粥のような糊のようなものをそのお椀に一杯よそって来ると、
「南無黒犬大明神」
と言って推《お》しいただいて、恭《うやうや》しく座を立って、ムク犬の前へ自身に持って来ました。
 そのお椀を目八分に捧げて、推しいただいて持って来る有様というものが馬鹿丁寧で、見ていられるものではありません。
「南無黒犬大明神様、何もございませんが、これを召上って暫時のお凌《しの》ぎをあそばされましょう」
 縁のところへさしおいて、犬に向って三拝する有様というものは、正気の沙汰ではありません。
 しかしながら、なお不思議なことは、神尾の下屋敷で、何を与えられても口を触れることだにしなかったムク犬が、この一椀のお粥とも糊ともつかぬものを、初対面の慢心和尚から捧げられると、さも嬉しげに舌を鳴らして食べはじめたことであります。

         九

 これより先、浪人たちに怨《うら》まれて、両国橋に梟《さら》された本所の相生町の箱屋惣兵衛の家が、何者かによって買取られて、新たに修復を加えられて、別のもののようになり
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