ようとすると、ムク犬は猛然としてその痩《や》せた身体を左右に振りました。
「危ねえ、こん畜生」
 二人の犬殺しはその勢いに狼狽したが、
「こいつはいけねえ、どうしても首を松の木へ吊り下げておいてからでねえと」
 二人の犬殺しは、手際よく口環をはめてしまうつもりであったところが意外の手強《てごわ》さに、やや当《あて》が外れて、まずどうしても松の枝へ縄をかけて、首を或る程度まで締め上げておいてから、仕事にかからねばならぬと覚《さと》りました。
 麻縄の細引へ輪をこしらえ、それをムク犬の首へ投げかけること、それは近寄って口環をはめることよりも遥かに容易《たやす》い仕事でもあり、充分の熟練を持っておりました。
 難なくムク犬の首を麻縄で括《くく》って、それを松の枝へ引き通して、悠々と引き上げにかかりました。けれども、不幸にして、最初から捲いてあった二重三重の鉄の鎖が取れていないのだから、ある程度までしか引き上げることはできません。
 彼等の目的は、こうして首をしめてしまわない程度において、後足で直立するほどに犬の首を引き上げて、前へ廻って腹を見られるくらいにして置いて、仕事にかかろうというので
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