の首に捲きつけられた二重三重の鉄の鎖を問題にしているのであります。実際、あの鎖があっては、皮を剥きにかかる時に、どのくらい邪魔になるかということは、素人目《しろうとめ》にも想像されることです。
「だからおれは、あいつを外してしまって、その代りにこの環《かん》を首へはめて、細引で松の枝へ吊《つる》しておいて仕事にかかりてえと思うのだ」
「けれども、あのくらいの犬だから、細引じゃあむずかしかろうと思われるぜ」
「ナーニ、大丈夫だ、こいつを二重にして引括《ひっくく》れば何のことはあるものか」
「じゃあ、そういうことにしよう、いちばん先に口環《くちわ》をはめるんだな、口環を」
用意して来た革製の口環を取って二人が、やがてムク犬の方へ近寄りますと、今まで伏していたムク犬がこの時に立ち上りました。
「やい畜生、温順《おとな》しく往生しろよ」
二人の犬殺しは尋常の犬殺しにかかるつもりで、左右から歩み寄って、一人は例の握飯《むすび》を投げて、一人は投網《とあみ》を構えるように口環を拡げて、
「それ、こん畜生、口をこっちへ出せ」
呼吸を計って両方から、ムク犬を伸伏《のっぷ》せるようにして口環をはめ
前へ
次へ
全172ページ中107ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング