ふる》って、出来得る限りの巧妙と迅速とを尽して、生きながら犬の皮をクルクルと剥いてしまって、それでなお、いくらかの生命を保たせ得るかどうかというのがその試験の眼目であります。
むつかしいのは皮を剥くそのことでなく、皮を剥くまでの間、生きた犬をどうしてじっとさせて置くかでありました。二人の犬殺しの苦心もまたそこにあって、いろいろに犬を手懐《てなず》けようとしたのもそれがためでありました。しかし、見込み通り二人の犬殺しに懐《なつ》くかどうかは、犬を扱い慣れたこの犬殺しどもにもまだ自信がありません。与える食物は取らないけれど、その温順であるらしいことが、いくらかの心恃《こころだの》みにはなっていただけであります。こうして首へ縄をかけて松の枝へつるし、四本の足へも縄をつけて四方へ張っておいて、身動きのできないようにしておいて、それから仕事にかかるというのが順序であって、それはほぼ見当がついているのであります。
神尾の招いた多くの人は、その当日の定刻に続々と詰めかけて来ました。広間の中や縁のあたりに居溢《いこぼ》れて、みんなの眼は松の木の下の真黒い動物に注《そそ》がれています。なかには立って
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