日を期して躑躅ケ崎の神尾の屋敷へ、多くの人が招かれることになりました。その集まりの目的は、前に言う通りの残忍なる遊戯のためであります。その残忍なる遊戯に使用さるべき動物は、すなわちムク犬であって、それの遊戯を実行するのは、巨摩郡《こまごおり》から雇われた長吉、長太という二人の犬殺しの名人であって、それを見物するのが主催者の神尾主膳をはじめ、勤番の上下にわたる有志の者であります。
 二人の犬殺しは、その前日来、しきりに犬を手慣らすことに骨を折りました。最初の時にガリガリと棒を噛み砕いただけで、その後は、やはり眠そうにしているばかりで、別に二人の犬殺しに反抗する模様も見えませんでした。それで犬殺しは安心したけれども、なお気に入らないことは、いくら食物を与えてもこの犬が、それを欲しがらないことであります。
 いろいろにして食物を欲しがるように仕向けたけれど、これだけはついに成功しないで、その試験の当日になりました。
 犬殺しどもにもまた大きな責任があります。その皮を剥《む》き損ずるか、剥き了《おお》せるかによって議論も定まるし、自分たちの腕も定まるのでありました。二人が同時に刀《とう》を揮《
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